がん障害年金の請求のポイント

がんの障害年金のポイントを、がん患者を支援する社会保険労務士がわかりやすく解説します

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私は自分自身も肺がん体験者であり、肺がんで障害年金を受給しておりました。

現在は障害年金ではマイナーであるがんの障害年金を専門に請求代理を行っております。

多くの請求代理をしていて感じるのは、がんで障害年金を受給する際の大きな障壁の一つが、診断書を記載していただく医師に障害年金の制度が十分に周知されていないことです。

あくまで私の実務上の感覚ですが、がんを診察している医師に障害年金の診断書の記載を依頼すると、障害年金の診断書を初めて書くという医師が5〜6割ぐらいだと感じます。

国立がん研究センター中央病院や東病院などのがん患者を多く診ている医師は障害年金の診断書を書いた経験があることが多いと思います。

ただし、がんを診療する医師で、障害年金の診断書の記載に慣れている方は、ほんとうに少ないです。

私がよく、障害年金のセミナーなどでご一緒させていただく勝俣範之先生はその数少ない1人だと思いますが、残念ながら、勝俣先生のように障害年金に理解のある医師はかなり少ないと思います(勝俣先生とのセミナーの様子はこちらから)。

がんでの障害年金の診断書は、生命保険の給付金を請求するときと同じ感覚では、うまくいかないことがあります。年金事務所からもらってきた診断書原本を何も言わずに、医師に「障害年金の診断書をお願いします」と依頼しても、実際の病状や生活への影響が十分に伝わる診断書が出来上がってくるとは限らないと思います。

では、がんで障害年金はどうすれば受給できるのか?

今回は、がんの障害年金のポイントをわかりやすく解説します。

がんで障害年金を受給する人は、どのくらいいるのか

「障害年金業務統計(令和7年度決定分)」で、新たに支給が決まった件数が公表されています。

詳しくは、最新統計から見る障害年金〜がん障害年金を受給するのは難しい〜でも解説しています。

障害年金の診断書は全部で8様式あります。

障害年金の診断書は8様式
番号 診断書の種類
1 眼の障害
2 聴覚・鼻腔機能・平衡機能・そしゃく・嚥下機能・音声又は言語機能の障害
3 肢体の障害
4 精神の障害
5 呼吸器疾患の障害
6 循環器疾患の障害
7 腎疾患・肝疾患・糖尿病の障害
8 血液・造血器・その他の障害

がんでの全身状態を評価するとき、障害年金では、基本的には「血液・造血器・その他の障害用」の診断書を使用します。

がんによる局所の障害があれば、その障害の認定基準に沿って、その障害を1番評価できる診断書を使用します。例えば、脳腫瘍の神経症状による下肢の麻痺症状があれば3の「肢体の障害用」、舌がんで舌の全摘などは2の「そしゃく・嚥下・言語機能の障害用」などを使います。抗がん剤治療の副作用や、がんによる全身状態の悪化を伝える場合には「血液・造血器・その他の障害用」が基本になります。必要な診断書は、障害の状態や請求の内容に応じて確認しましょう。

下の表を見ていただきたいのですが、令和7年度の診断書種類別の新規支給件数では、「血液・造血器・その他」は4,319件、全体の3.3%でした。

診断書種類別の新規支給件数(令和7年度)
診断書の種類 支給件数 構成比
精神障害・知的障害 89,725件 67.7%
呼吸器疾患 674件 0.5%
循環器疾患 3,924件 3.0%
腎疾患・肝疾患・糖尿病 6,596件 5.0%
血液・造血器・その他 4,319件 3.3%
眼 2,773件 2.1%
聴覚等 2,850件 2.1%
肢体 21,707件 16.4%
合計 132,568件 100.0%

出典:日本年金機構「障害年金業務統計(令和7年度決定分)」3ページ。構成比は公表値です。複数の診断書を使った場合は診断書ごとに計上されるため、実際の受給者数とは一致しません。障害厚生年金の支給件数には障害手当金も含まれます。

もちろん、「血液・造血器・その他」のすべてが、がんによる請求ではないです。悪性リンパ腫や白血病などは「血液・造血器」に含まれますが、固形がんは「その他」の障害となります。「その他」は、ほかの7つの診断書では適切に状態を伝えられない傷病に対して使うものであり、固形がん専用のものではなく、ほかの傷病も含みます。反対に、がん患者さんでも局所の障害では別の診断書を使うことがあります。

そのため、この統計だけでは、がんで受給した人の人数や、全体に占める割合まではわかりません。がんだけの割合を、この3.3%から算出することはできません。

「全体に占める割合」と「請求して支給となった割合」は違います

3.3%は、診断書種類別の新規支給件数全体に占める「血液・造血器・その他」の割合です。つまり、新たに支給となった診断書の件数全体を100%としたときの内訳です。一方、「血液・造血器・その他」で決定された件数のうち、支給となった割合は、下の表の41.1%・81.8%です。分母が違うので、この二つは分けて見る必要があります。

「血液・造血器・その他」で支給となった割合(令和7年度・新規裁定)
年金の区分 支給/決定数 支給割合
障害基礎年金 753件/1,834件 41.1%
障害厚生年金 3,566件/4,360件 81.8%

出典:同統計4・5ページ。いずれも、がんだけの支給割合ではありません。障害厚生年金には3級・障害手当金があり、対象となる方や等級の範囲が異なります。

制度を知らずに請求していない方もいると思います

数字だけで、請求していないがん患者さんが何人いるかまではわかりません。ただ、私自身のがん患者としての経験や、患者会、日々の相談を通して、障害状態に該当する可能性があっても、制度を知らずに請求していない方が多くいると感じています。

がんでの障害年金を必要としている方に、制度がきちんと届いてほしいと思います。

がんによる障害年金受給割合が低い理由

私自身のがん患者としての経験、患者会でたくさんのがん患者の方と接してきた経験、そして多くのがん障害年金請求代理手続きを通して感じたことを、以下にまとめました。

受給を難しくしている理由
がん患者さんに障害年金の制度が認知されていない
働いていると支給されないと思っている
認定基準が分かりづらい
がんを診療する医師が障害年金の診断書を書くことに慣れていない
社会保険労務士でも、がんでの障害年金申請のポイントに詳しいとは限らない
がん患者が認定基準を満たしても、症状の悪化により請求する気力と体力がない

このようなことが複数重なり、結果としてがんでの障害年金の受給を難しくしています。

相談場所として病院のがん相談支援センターがあると思いますが、ソーシャルワーカーなどの相談員の方が、がんの障害年金に詳しければいいですが、相談員の方もがんでの障害年金請求の経験が少なく、どのような内容を診断書に記載してもらえばよいかわからない、という声を聞くことがあります。

もう一つ、相談場所として年金事務所があると思いますが、年金事務所の相談員は、請求手続きを進めるための専門知識を持っています。そのため手続きを進めるためのアドバイスはきちんとしてくれます。ただし、年金事務所は請求者の代理人として書類を作成する立場ではないので、病状をどう整理して診断書に反映してもらうかという点まで、十分に相談できるとは限りません。

そのため、請求書類で一番大切な診断書の書き方を丁寧に教えてくれる方は少ないと思います。

年金事務所であれ、がん相談支援センターであれ、最初に相談する相手がとても親切でがんの障害年金に詳しければ、受給につながるアドバイスを受けられる可能性がありますが、詳しくなければ「あなたの症状では障害年金はもらえない」と言われて受給の機会を失ってしまうこともあり、実際に当事務所に相談に来られる方は、そのような方が多いです。

しかし、「あなたの症状では障害年金はもらえない」と言われてしまった方でも、その後、当事務所に依頼をされて受給される方が多くいらっしゃいます。

がんで障害年金を受給するためのポイント

一番大事なのは医師の診断書

障害年金で一番大事なのは医師の診断書です。

医師の診断書は、悪性新生物(がん)の認定基準を満たしているかを判断する、とても大事な資料です。

しかし、その診断書を書いてもらうのが難しいのです。

なぜなら、がんの診察では、障害年金の審査に必要な日常生活や就労状況まで、十分に聞き取る時間があるとは限らず、医師が悪性新生物の認定基準に詳しいとも限らないからです。

もちろん、障害年金の認定基準を理解するのは医師の仕事ではありません。

しかし現実問題として、認定基準を満たしている診断書でなければ、実際の状態が認定基準を満たしている方であっても、書類審査のみの障害年金審査では、不支給となってしまうことがあります。

そのため、医師に診断書を依頼する際に認定基準に沿って病状や生活への影響が伝わるよう、必要な事実を医師にきちんと伝えることが大切だと考えます。

もちろん、診断書に事実とは異なることを記載してもらうわけではありません。悪性新生物の認定基準に則した事実を記載してもらう必要があります。

依頼する側が認定基準を理解する必要がある

先ほど、悪性新生物の認定基準に沿って、実際の病状や生活への影響が伝わる診断書が必要だとお話ししました。

そのような診断書を主治医に作成してもらうためには、依頼する側が悪性新生物の認定基準を理解している必要があります。

その上で、医師に病状をきちんと伝え、診断書を作成してもらう必要があります。

国民年金・厚生年金保険 障害認定基準のリンクを貼っておきます。悪性新生物の認定基準は、冊子に印字された100〜101ページに記載されています。この認定基準を理解して、必要な事実を医師にきちんと伝えることができれば、障害年金の受給に近づくことができると思います。

しかし、障害年金の知識がない方の場合、自分で請求して障害年金の認定基準を満たす診断書を作成してもらうことは正直難しいし、受給の可能性に影響を与えると思います。

私自身も、自分が障害年金を受給したときは社会保険労務士に依頼をしました。

でも、知識がある方で、ご自身で請求したい方もいらっしゃると思います。

その際は、私が解説している動画を見ていただくことで診断書の精度をあげることが可能ではないかと思います。

がん障害年金をYouTubeで解説 〜ワンステップのYouTubeから〜

勝俣範之先生とのがん障害年金セミナーがYouTube で公開中です

認定基準については、がんでの認定基準をわかりやすく解説もご覧ください。

医師の診断書作成が比較的進めやすいケース

がんの障害年金でも、医師の診断書作成が簡単なケースもあります。

このようなケースでは、私のような社労士にお願いしなくても、ご自身で手続きを進めやすい場合があると個人的には思っています。

それは、手術や治療の事実などについて、認定基準に具体的な取扱いが定められているケースです。

障害認定日の特例と重なる部分がありますので、手術や治療を、下の表に整理しました。手術名だけで受給や等級が決まるわけではなく、各障害の認定基準や初診日・保険料納付要件も確認します。もちろん、病歴・就労状況等申立書などの書類の作成も必要です。原則の障害認定日は初診日から1年6か月を経過した日ですが、手術後などに症状が固定した場合は、それより前の日が障害認定日になることがあります。認定日と等級の目安を分けて確認しましょう。

障害認定日の特例と等級の考え方
手術・治療、障害の状態 障害認定日と主な取扱い
喉頭全摘出 喉頭全摘出日。原則2級(喉頭亜全摘・咽頭全摘とは取扱いが異なります)
切断または離断による肢体の障害 切断日または離断日(障害手当金は創面治癒日)
脳血管障害による機能障害 初診日から6か月を経過した日以後で、医学的にそれ以上の機能回復がほとんど望めないと認められた日
人工透析 透析開始から3か月を経過した日。初診日から1年6か月を経過する前であれば、その日が障害認定日となります。等級の目安は2級
在宅酸素療法 開始日。常時(24時間)使用する場合は原則3級
人工肛門造設、尿路変更術 造設日または手術日から6か月を経過した日。人工肛門または尿路変更のいずれかだけでは原則3級。両方を行った場合などは2級となる場合があります。
新膀胱造設 造設日。原則3級
人工骨頭、人工関節挿入置換 挿入置換日。上肢3大関節又は下肢3大関節に人工関節を挿入置換した場合は原則3級
人工弁、心臓ペースメーカー、植え込み型除細動器(ICD) 装着日。原則3級
心臓移植、人工心臓、補助人工心臓 移植日又は装着日。等級の目安は1級(術後の経過で等級の見直しがある)
CRT(心臓再同期医療機器)、CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器) 装着日。重症心不全の場合は2級(術後の経過で等級の見直しがある)
胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤による人工血管(ステントグラフトを含む)の挿入置換 挿入置換日。3級(一般状態区分表が「イ」か「ウ」の場合)
神経系の障害で現在の医学では根本的治療方法がない疾病 今後の回復は期待できず初診日から6か月を経過した日以後において気管切開下での人工呼吸(レスピレーター)使用、胃ろう等の恒久的な措置が行われており日常の用を弁ずることができない状態であると認められるとき
遷延性植物状態 障害状態に至った日から起算して3か月を経過した日以後に、医学的観点から、機能回復がほとんど望めないと認められるとき

出典:日本年金機構「かけはし」第94号(12〜15ページ)ほか、各障害の認定基準。上の表は主な取扱いの要約です。原則として、表の認定日が初診日から1年6か月を経過する日より前にある場合の特例です。3級は障害厚生年金のみで、障害基礎年金にはありません。個々の状態によっては別の等級に該当する場合もあります。

自分で作成する病歴・就労状況等申立書について

障害年金の請求では、請求者自身が病歴や生活・就労の状況を記載する「病歴・就労状況等申立書」という書類があります。

ただし、この書類の位置付けはあくまで、診断書の記載内容を補足するものという理解の方がいいと思います。

診断書に記載のない症状を、この病歴・就労状況等申立書にたくさん書くだけでは、実際の状態が十分に伝わるとは限らないと思います。

診断書に記載のある症状について、より詳しく説明する内容になっているのがいいです。

例えば、診断書に「抗がん剤治療の副作用による倦怠感が見られる」という記載があったときに、病歴・就労状況等申立書に『倦怠感のため1日のほとんどをベッドで寝ている』というように、診断書の記載内容をより詳しく説明するような感じです。もちろん、これは実際にそのような状態である場合の例です。診断書に大事な症状が抜けているときは、申立書だけで補おうとせず、診断書を修正・追記してもらうことが必要だと思います。

まとめ

がんの障害年金請求のポイントをまとめてみました。

結論としては、障害認定基準に則した診断書を記載してもらうことが一番重要になります。

しかし、がんを診療する医師は障害年金の診断書を書いたことがない医師が多く、認定基準を理解している医師ばかりではないと思っておいた方がいいです。

いままで、がんで障害年金を請求する人が少なかったので、がんを診療している医師も障害年金の診断書記載の経験がなく、仮に診断書を書いたことがあったとしても、支給に至るまでの経過や結果を知る機会が少なく、経験が蓄積されにくいことも一因ではないかと感じています。

それは、がん相談支援センターの相談員も同じです。

がんでの障害年金を苦手としている方も多く見られます。

そのような状況を少しずつでも変えていくためには、がんで障害年金を請求する方が増えて、多くの医師やがん相談支援センターの方が、成功体験を積み上げる必要があるのかなぁと思っております。

相談先として社会保険労務士もあると思いますが、障害年金というのは社会保険労務士の業務の中でも専門性が高く、扱ったことがない社労士も多く、さらに障害年金の中でもマイナーと言われるがんでの請求は、なかなかハードルが高いと思います。

がんでの障害年金請求を社労士に依頼することを検討中の方がおりましたら、当事務所へぜひご相談ください。

参考資料

制度・統計の確認日:2026年10月26日

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