雇用保険の失業手当の基本事項については、厚生労働省>雇用保険制度>離職されたみなさまへ をご覧ください。
大前提として雇用保険の失業給付を支給される者は、「就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力がある」ということは忘れないでください。
ですので、がんが原因で就職できない方は雇用保険を受給できません。ハローワークに求職の申込みに行くときは、就職する気満々で行ってください(笑)。
もし、働くことができない場合は、受給期間の延長手続きをしておいてください。受給期間(1年)を最大4年間まで延長することができます。
ここでは一般被保険者(65歳未満の方)について解説していきます。
このページの目次
一般被保険者(65歳未満)
基本手当の支給額
雇用保険で受給できる1日あたりの金額を「基本手当日額」といいます。
この「基本手当日額」は原則として離職した日の直前の6か月に毎月きまって支払われた賃金(つまり、賞与等は除きます。)の合計を180で割って算出した金額(これを「賃金日額」といいます。)のおよそ50~80%(60歳~64歳については45~80%)となっており、賃金の低い方ほど高い率となっています。基本手当日額は年齢区分ごとにその上限額が定められており、現在は次のとおりとなっています。
引用:ハローワークインターネットサービス
基本手当というのは、退職前給料の約50%〜80%です。
この基本手当日額を次の給付日数分もらえます。
雇用保険の給付日数
一般の離職者(特定理由離職者2含む)
特定受給資格者・特定理由離職者1
就職困難者(障害者等)
給付日数を決めるのが、「一般離職者」「特定受給資格者・特定理由離職者1(令和7年3月31日まで)」「就職困難者」だということがわかりました。
どういう人たちが、どの受給者区分に該当するのか?
それが、とても大事になってきます。詳しく解説していきます。
一般の離職者とは
特定受給資格者(特定理由離職者1含む)、就職困難者に該当しない方が一般の離職者に該当します。自己都合で退職した場合がこの一般の離職者になります。2ヶ月の給付制限期間があり、給付日数も最大で150日と少ないです。自己都合退職の場合は退職時に「一身上の都合により」という退職届を出すことが多いです。
やむを得ない理由による自己都合で退職した方も、一般の離職者に該当し、基本手当の給付日数は同じです。しかし、2ヶ月の給付制限期間がありません。このやむを得ない理由による自己都合退職者を特定理由離職者2といいます。
特定理由離職者とは
特定理由離職者には2つの区分があり、1 or 2 に該当するかで給付日数が変わってきます。
特定理由離職者1に該当すれば、令和7年3月31日までの間にある方に限り、給付日数が特定受給資格者と同じになります。
特定理由離職者2に該当すれば、給付日数は一般の離職者と同じになりますが、2ヶ月の給付制限期間がなく基本手当を受け取れます。
特定理由離職者1とは
期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した者(その者が当該更新を希望したにもかかわらず、当該更新についての合意が成立するに至らなかった場合に限る。)
派遣労働者の雇い止めなどがこれに当たります。
労働契約に「契約を更新する(しない)場合がある」「○○○の場合は契約を更新する」など、契約の更新について明示はあるが、契約更新の確約がない場合の雇い止めは特定理由離職者1に該当する可能性があるので、ハローワーク問い合わせてください。
当初から契約更新がないことが労働契約書に明示されていた場合は、基本的には特定理由離職者1には該当しません。
特定理由離職者2
以下の正当な理由のある自己都合により離職した者
(1) 体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等により離職した者
(2) 妊娠、出産、育児等により離職し、雇用保険法第20条第1項の受給期間延長措置を受けた者
(3) 父若しくは母の死亡、疾病、負傷等のため、父若しくは母を扶養するために離職を余儀なくされた場合又は常時本人の看護を必要とする親族の疾病、負傷等のために離職を余儀なくされた場合のように、家庭の事情が急変したことにより離職した者
(4) 配偶者又は扶養すべき親族と別居生活を続けることが困難となったことにより離職した者
(5) 次の理由により、通勤不可能又は困難となったことにより離職した者
(a) 結婚に伴う住所の変更
(b) 育児に伴う保育所その他これに準ずる施設の利用又は親族等への保育の依頼
(c) 事業所の通勤困難な地への移転
(d) 自己の意思に反しての住所又は居所の移転を余儀なくされたこと
(e) 鉄道、軌道、バスその他運輸機関の廃止又は運行時間の変更等
(f) 事業主の命による転勤又は出向に伴う別居の回避
(g) 配偶者の事業主の命による転勤若しくは出向又は配偶者の再就職に伴う別居の回避
(6) その他、上記「特定受給資格者の範囲」の2.の(11)に該当しない企業整備による人員整理等で希望退職者の募集に応じて離職した者等
特定受給資格者
特定受給資格者とは、倒産・解雇等により、再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされたもののことをいい、手厚い給付日数が給付されることになります。7日間の待機期間はありますが、2ヶ月の給付制限期間はありません。
会社都合で退職せざるを得なかった離職者です。具体的には次に該当するかたをいいます。
-
「倒産」等により離職した者
(1) 倒産(破産、民事再生、会社更生等の各倒産手続の申立て又は手形取引の停止等)に伴い離職した者
(2) 事業所において大量雇用変動の場合(1か月に30人以上の離職を予定)の届出がされたため離職した者(※)及び当該事業主に雇用される被保険者の3分の1を超える者が離職したため離職した者
※ 事業所において、30人以上の離職者が生じることが予定されている場合は、再就職援助計画の作成義務があり、再就職援助計画の申請をした場合も、当該基準に該当します。
また、事業所で30人以上の離職者がいないため、再就職援助計画の作成義務がない場合でも、事業所が事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされる者に関し、再就職援助計画を作成・提出し、公共職業安定所長の認定を受けた場合、大量雇用変動の届出がされたこととなるため、当該基準に該当します。
(3) 事業所の廃止(事業活動停止後再開の見込みのない場合を含む。)に伴い離職した者
(4) 事業所の移転により、通勤することが困難となったため離職した者 -
「解雇」等により離職した者
(1) 解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く。)により離職した者
(2) 労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者
(3) 賃金(退職手当を除く。)の額の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかったことにより離職した者
(4) 賃金が、当該労働者に支払われていた賃金に比べて85%未満に低下した(又は低下することとなった)ため離職した者(当該労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る。)
(5) 離職の直前6か月間のうちに[1]いずれか連続する3か月で45時間、[2]いずれか1か月で100時間、又は[3]いずれか連続する2か月以上の期間の時間外労働を平均して1か月で80時間を超える時間外労働が行われたため離職した者。事業主が危険若しくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険若しくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者
(6) 事業主が法令に違反し、妊娠中若しくは出産後の労働者又は子の養育若しくは家族の介護を行う労働者を就業させ、若しくはそれらの者の雇用の継続等を図るための制度の利用を不当に制限したこと又は妊娠したこと、出産したこと若しくはそれらの制度の利用の申出をし、若しくは利用をしたこと等を理由として不利益な取扱いをしたため離職した者
(7) 事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため離職した者
(8) 期間の定めのある労働契約の更新により3年以上引き続き雇用されるに至った場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者
(9) 期間の定めのある労働契約の締結に際し当該労働契約が更新されることが明示された場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者(上記(8)に該当する場合を除く。)
(10) 上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者、事業主が職場におけるセクシュアルハラスメントの事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより離職した者及び事業主が職場における妊娠、出産、育児休業、介護休業等に関する言動により労働者の就業環境が害されている事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより離職した者
(11) 事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しない。)
(12) 事業所において使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が引き続き3か月以上となったことにより離職した者
(13) 事業所の業務が法令に違反したため離職した者
就職困難者
給付日数が一番手厚いのが就職困難者です。なお、就職困難者は自己都合で退職した場合は7日間の待機期間後、2ヶ月の給付制限期間があります。
就職困難者とは次にあげる方が該当します。
(1) 身体障害者(身体障害者手帳を持っている人)
(2)知的障害者(療育手帳を持っている人)
(3)精神障害者(精神障害者保健福祉手帳を持っている人)
ただし、統合失調症、躁鬱病(そう病及びうつ病を含む)又はてんかんの場合は精神障害者保険福祉手帳を持っていなくても医師の診断書だけで就職困難者と認められるケースがある(ハローワークごとのローカルルールがあるので、管轄のハローワークに確認してください)
(4)刑法等の規定により保護観察に付された方
(5)社会的事情により就職が著しく阻害されている方
がん患者の場合はどの受給者区分??
実際にがんで退職した場合はどの受給者区分になるのか?
給付日数は一般の離職者<特定受給資格者<就職困難者 の順に多くなります。
一番気になるところだと思うので、くわしく解説していきたいと思います。
がんが原因で自ら退職する場合
基本的には、がんが原因で退職される方は、特定理由離職者2の(1)体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等により離職した者に該当します。特定理由離職者2の場合は2ヶ月の給付制限期間はありませんが、基本手当の給付日数は最大でも150日となります。残念ながら自己都合と同じ給付日数です。うーん、ちょっと悲しいですね。
がんが原因の休職期間満了での退職
現在、多くの企業で休職制度があります。休職期間中に復職できず、休職期間満了による退職の扱いは、就業規則に規定されていると思います。もし、就業規則に規定されていない場合は担当部署に確認してください。
具体的には次のような就業規則です
- 「休職期間満了までに復職できない場合は退職扱いとする」
- 「休職期間満了までに復職できない場合は解雇とする」
1の場合は休職期間満了により、自然退職(特定理由離職者2)の扱いとなります。2の場合は休職期間満了により、解雇(会社都合)となります。1の場合は一般の離職者となり、2の場合は特定受給資格者となり、給付日数が大きく違ってきます。
辞めざるを得ない労働者にとっては、解雇で退職のほうが特定受給資格者となることができメリットがあります(再就職時に解雇だと印象が悪くなる可能性あり)。
現状は、休職期間満了の退職は就業規則で自然退職と規定している会社が多いようです。解雇(会社都合)扱いにすると、企業側が助成金がもらいにくいなどのデメリットがでてくる可能性があるためです。中小企業で助成金を受けている会社は会社都合にはしたくないはずです。一方で助成金を受けていない会社においては、会社都合によるデメリットはほとんどないと思います。会社都合にしてくると嬉しいです。。。。
がんが原因で退職した場合は働ける状態であることを証明するため、ハローワークに求職の申込みをする際に働けるという医師の診断書が必要になる場合があるので注意してください。しかし、がんが原因の体調不良で離職した場合に必ず働けないというわけではありません。肉体労働はできず退職した場合、職種によっては働ける場合などは離職後すぐに就職活動をすることは十分考えられるます。
会社からの退職勧奨や職場でのいやがらせ
この場合は特定受給資格者の(10)、(11)に該当します。ただし、ハローワークで認めてもらえるだけの具体的な証拠が必要になります。
がんだけでは就職困難者にはならないけど・・・
がんという病気のみで、就職困難者に該当しません。障害年金を受給していても就職困難者とはなりません。
就職困難者の条件は次のとおりです。
(1) 身体障害者(身体障害者手帳を持っている人)
(2)知的障害者(療育手帳を持っている人)
(3)精神障害者(精神障害者保健福祉手帳を持っている人)
ただし、統合失調症、躁鬱病(そう病及びうつ病を含む)又はてんかんの場合は精神障害者保険福祉手帳を持っていなくても医師の診断書だけで就職困難者と認められるケースがある(ハローワークごとのローカルルールがあるので、管轄のハローワークに確認してください)
(4)刑法等の規定により保護観察に付された方
(5)社会的事情により就職が著しく阻害されている方
この中で、がん患者に関連がありそうなケースが(1)の身体障害者と(3)の精神障害者です。
(1)の身体障害者の場合は、身体障害者手帳を持っていることが条件となります。
がん患者では次の場合は身体障害者手帳交付の対象になります。
- 膀胱がん、直腸がんにより人工膀胱、人工肛門などを増設した場合
- 頭頸部がんにより咽頭部摘出により言語機能障害がある場合
- 肺がんによる呼吸機能低下により、在宅酸素療法を行う場合
その他、「視覚障害」「聴覚障害」「平衡機能障害」「そしゃく機能障害」「肢体不自由」「心臓機能障害」「じん臓機能障害」「小腸機能障害」「ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害」「肝臓機能障害」が継続している場合は身体障害者手帳が交付される可能性があります。
(2)の精神障害者についてですが、がん患者の約2〜3割がうつ病などの精神疾患を抱えていると言われています。精神障害者保健福祉手帳を持っていれば就職困難者に該当します。精神障害者保健福祉手帳を持っていない場合でも、6ヶ月以上精神科や腫瘍精神科などにかかっている場合は就職困難者に該当する可能性があります。うつ病などで医師の診断書があれば就職困難者として、認められる可能性があります。
障害年金と退職後の雇用保険の関係
退職後の雇用保険(失業保険)をもらっていると障害年金の受給審査に影響があるのか?
又は、障害年金を受給していると退職後の雇用保険(失業保険)はもらえるのか?
日本年金機構とハローワークは情報共有できていて、互いにどちらかを受給している場合はその情報を知ることができます。
がんで障害年金を受給している場合は、基本的には労働に制限を受けている状態だと考えられます。
詳しくは「がんでの認定基準をわかりやすく解説」を参照してください。
また、雇用保険を受給しているということは「就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力がある」と判断される可能性があります。
障害年金と退職後の雇用保険は制度上は同時に受け取ることができます。しかし、障害年金を受給しているときに退職後の雇用保険を申請した場合は、働けるという医師の診断書を求められることがあります。そして、医師からの働けるという診断書を書いてもらい雇用保険を受給した場合は、次回の障害年金更新時に認められない可能性が出てくるでしょう。
その逆で、雇用保険を受給している人が障害年金の申請をした場合は、障害年金の審査でマイナスになることが考えられます。
この点を理解したうえで、障害年金と雇用保険はよく考えて請求手続きをすることをおすすめします。
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