がんになって介護が必要な状態になったら介護保険サービスを受けられる可能性があります。
原則1割の自己負担により介護保険サービスを受けることができます。
介護保険サービスは自ら申請しないとサービスを受けることができません。近年、在宅医療サービスを提供できる施設が増加し、在宅医療サービスの質も向上しております。そのため、最期を自宅で迎える方も多くなってきています。そのような際には介護保険サービスの対象となる可能性があります。今回は介護保険の対象者、サービスの内容、申請方法について解説していきたいと思います。
今回は介護保険についての解説ですが、がん患者さんで対象となるのは、終末期の患者さんがほとんどとなります。そのため、終末期など想像したくない、終末期の話は心が沈むので聞きたくない、と思う患者さん・ご家族は読まずにとばしてください。
このページの目次
介護保険の対象者
65歳以上の方
65歳以上の方は介護保険の第1号被保険者となります。
介護保険が必要な状況であれば病気・ケガなど原因に関わらず介護保険サービスを受けることができます。
40歳〜64歳の方
40歳〜64歳の方は介護保険の第2号被保険者となります。
16の特定疾病に該当し、介護が必要な状況であれば、介護保険サービスを受けることができます。
特定疾病とは「心身の病的加齢現象と医学的な関係があると考えられる疾病、そして加齢とともに生じる心身の変化が原因で、要介護状態を引き起こすような心身の障害をもたらすと認められる疾病」をいい、
具体的とは次のとおりです。
- がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
「がん」は16の特定疾病に含まれています。
40歳未満の方
40歳未満の方は介護保険の被検者ではないため、介護保険サービスは使えません。
ただし、医療保険には加入しているはずなので、在宅で療養する方には医療保険から「訪問看護療養費」が支給されます。負担割合は3割負担になりますが、介護保険サービスの訪問看護と同じサービスを受けることができます。もちろん、高額療養費の対象にもなります。
介護ベッドなども、自費にはなりますが、介護サービス事業者等からレンタルすることができます。自治体によっては独自の給付があるところもありますので、各市区町村の窓口までお問い合わせください。
がんで介護保険サービスの対象となる方
65歳以上であれば、病名に関係なく介護を必要とする状態(要介護状態)になったり、日常生活に支援が必要な状態(要支援状態)になれば、介護サービスを利用できます。
40歳以上〜64歳までの方は、がんで介護保険サービスの対象となるためには、末期がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)である必要があります。
この「末期がん」というのは、いわゆる行政用語的なもので、実際の臨床現場では使用される言葉ではないと思います。この言葉が、がん患者が介護保険サービスを利用する一つのハードルとなっていると思われます(その理由はこちら)。
「末期がん」という言葉尻に捉われることなく、在宅で家族の世話をする場合は介護保険サービスを利用してもいいと思うので、医師を含めた医療従事者、がん相談支援センター、市区町村の窓口に早めに介護保険サービスについて相談することをおすすめします。
入院中に介護保険は使えるの?
医療保険と介護保険を同時に使うことはできません。
医療保険と介護保険は制度が別なので、入院中は介護認定されていても医療保険が使用されるので、介護保険を使うことはできません。
がん患者さんに特に注意してほしいところ、一時外泊や外出したときです。この場合は自宅外泊した場合も入院中とみなされるので、介護保険サービスのヘルパーさんを使っても、介護保険サービスを受けることはできません。また、移動に福祉タクシーを使っても介護保険使えないので、全額負担になります。
ただし、入退院時に車椅子などの福祉用具のレンタルや購入をするときは、介護保険サービスが適用されます。
介護保険サービスの利用までの流れ
厚労省のホームページでわかりやすく説明されているのでリンクを貼っておきます。
サービス利用までの流れ
介護保険で利用できるサービスの種類と内容
厚労省のホームページでわかりやすく説明されているのでリンクを貼っておきます。
介護保険で利用できるサービスの種類と内容
終末期を自宅で過ごす選択をされた方は、「居宅介護支援」サービスにて介護の相談・ケアプランの作成後、自宅に訪問介護サービスを提供してもらえる「訪問介護(ホームヘルプ)」「訪問入浴」「訪問看護」「訪問リハビリ」「夜間対応型訪問看護」「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」などを利用できる可能性があります。
福祉用具の利用にかかるサービスである「福祉用具貸与」「特定福祉用具販売」は、在宅生活に必要な福祉用具を準備できます。
詳しくはケアプラン作成時にケアマネジャーさんと相談してください。
介護サービスの利用者負担
利用者負担
介護サービス費の自己負担は、原則として1割負担(*一定上所得者は2割又は3割)のほか、施設サービスを利用した場合の食費及び居住費を負担します。
*所得制限
・「合計所得金額160万円」以上かつ「年金収入+その他合計所得金額280万円(単身世帯の場合)(夫婦世帯の場合は346万円)」以上の場合は2割負担。
・「合計所得金額220万円」以上かつ「年金収入+その他合計所得金額340万円(単身世帯の場合)(夫婦世帯の場合は463万円)」以上の場合は3割負担。
※1 在宅サービスについては、要介護度に応じた支給限度基準額(保険対象費用の上限)が設定されている(がん患者さんの場合はこの在宅サービスを利用する事が多いです)。下図参照
※2 居宅介護支援は全額が保険給付される。
※3 日常生活費とは、サービスの一環で提供される日常生活上の便宜のうち、日常生活で通常必要となる費用。(例:理美容代、教養娯楽費用、預り金の管理費用など)
介護保険負担割合表
負担割合は介護保険負担割合証を確認してください。
高額介護(介護予防)サービス費
月々の介護サービス費の自己負担額が世帯合計(個人)で上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻されます。
ただし、施設サービスの場合に負担する食事の標準負担額、福祉用具購入・住宅改修における費用は除かれます。
介護サービス概算料金の試算
厚労省のこちらのサイトで簡単に試算できます。
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/?action_kouhyou_simulation_index=true
がんにおける介護保険サービス利用の注意点
介護サービスを受けるためには、市区町村で「要支援状態・要介護状態」と判定されることが必要ですが、申請から要介護認定されるまで、一定の時間がかかります(通常1か月程度)。
しかし、終末期のがん患者さんにおいては、状態が急速に悪化するケースもあり、申請して要介護認定される前に亡くなってしまうケースが多くあります。
がんの介護保険サービスの利用については、がんという病気の特性を考慮した運用が必要となります。
また、入院から在宅に切り替える際は、入院中から介護保険の申請手続きをはじめておき、要介護認定の審査も病院まできてもらいやってもらえるので、退院したら介護保険サービスがすぐ利用できる段取りを整えておくこといいと思います。詳しくは市区町村の担当窓口に相談してください。
がんが介護保険サービスの対象となった2006年以降、厚労省は事務連絡により各市区町村の申請の迅速化・円滑化を促しています。
事務連絡は次のとおりです。
末期がん等の方への福祉用具貸与の取扱等について(平成22年10月25日)[PDF形式:157KB]
末期がん等の方への迅速な要介護認定等の実施について(平成23年10月18日)[PDF形式:233KB]
がん患者に係る要介護認定等の申請に当たっての特定疾病の記載等について(平成31年2月19日)[PDF形式:105KB]
平成22年4月30日付事務連絡
- 保険者(市町村)が必要と認めた場合、申請から認定までの段階でも「暫定ケアプラン」を作成して、介護サービス提供を開始できる
- サービス利用に急を要する場合には、迅速な要介護認定を実施する(申請日中に認定調査を実施し、直近の介護認定審査会で2次次判定を行うなど)
- 入院段階から医療機関とケアマネージャーが連携し、退院後、切れ目のないサービス提供を行う
市区町村が要介護認定をする際に、主治医意見書おける特定疾病名について、従前は「末期がん」という記載が必要でしたが、「がん」のみの記載だけで受理して指し支えないことを決定しました。これは「がん」という病気の予後を予測することが困難なため、主治医が患者・家族に配慮して「末期がん」とは記載しにくいため、市区町村の介護保険サービスの認定に影響(末期がんと記載がないため要介護認定されない)があり、サービス利用が進まないとの指摘があったための運用変更です。
支援が必要なら、とりあえず市区町村の窓口へ
介護保険の申請手続をする前に、がんの病状が急速に進行し、介護状態となり介護ベッド等が必要になった場合は、とりあえず市区町村の窓口へ行ってみてください。
各自治体により地域支援事業サービスなどを紹介してくれる場合や地域支援事業サービスがなくても介護事業者を紹介してくれて、わりと安く介護ベッド等をレンタルしてくれる場合もあります。
こちらは地域支援事業についての引用です
要介護認定において「非該当」と認定された方でも、市区町村が行っている地域支援事業などにより、生活機能を維持するためのサービスや生活支援サービスが利用できる場合があります。
お住まいの市区町村又は地域包括支援センターにご相談下さい。 (厚労省HPより引用)
困った時はとりあえず、市区町村窓口へ行くと解決策を提案してくれる場合が多いです。
医療保険等で同じサービスが受けられるとき
在宅にて療養を受ける場合であって、指定訪問看護事業者から訪問看護をうけたときは、医療保険から「訪問看護療養費」が支給されます。介護認定され、介護保険サービスを利用できるようになると、介護保険から「訪問介護」サービスを受けることができます。
このように、医療保険と介護保険の両方からサービスを受けることができるときは、介護保険が優先されます。負担割合が医療保険は3割負担に対し、介護保険は1割負担なので、あたりまえといえば、あたりまえですけど。
その他にも、障害者総合支援法に基づく障害者手帳のサービスと介護保険サービスから同じ給付を受けることができるときも、原則的には介護保険を優先します。しかし、介護保険サービスのみでのサービスでは十分な福祉サービスが提供できないと認められる場合は障害者総合支援法に基づくサービスを受けることも可能です。
まとめ
65歳未満のがん患者が介護保険サービスが使えるようになったのは2006年からであり、それまでがん患者は介護保険サービスを使えない状況でした。いまでもがんで介護保険サービスが使えないと勘違いされている方もいます。
2020年までは、医師に記載してもらう診断書についても、末期がんというがわかるように記入されてないと認定されない状況でした。がん患者が利用しやすくなってきましたが、まだまだ、見直すべきことが多いことは、介護保険も障害年金も変わりません。
そのような状況が少しでも改善する出来るように、微力ながらちからを尽くせればと思います。
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