今回は傷病手当金です。傷病手当金とは業務外の病気やケガが原因で働けなくなったときに給料の一部の金額(標準報酬日額の3分の2)が、健康保険(全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合)から支給されます。がんの治療と病気を両立するための強い味方になります。しかし、実際に申請して使うときには注意しないといけないポイントがいくつかあるので、そこを解説していきます。
公務員等が加入する共済組合は健康保険より少し優遇されているので最後に少し触れておきます。

傷病手当金とは

対象者

全国健康保険協会(協会けんぽ)か健康保険組合に被保険者として加入している本人が支給対象です。自営業者などで国民健康保険に加入している人、または協会けんぽ・健康保険組合に加入している本人の被扶養者である家族は傷病手当金をもらう資格はありません。あくまで、収入がある人が働けなくなって収入が減ったときに、その一部を健康保険が補填するものだからです。

傷病手当金の金額

傷病手当金の金額は全国健康保険協会(協会けんぽ)とほとんどの健康保険組合は1年間の平均月給の約3分の2の金額となります。福利厚生が厚い一部の健康保険組合では、プラスで手当などがつくことがありますので、正確な額は自身の加入する健康保険組合にお問い合わせください。ボーナスは傷病手当金の計算には含まれません。あくまで、月給の3分の2となります。
ここでは、一般的である月給の約3分の2を補填するケースで説明していきます。実際には標準報酬月額を使いますが今回は月給とわかりやすく説明させていただきます。

健康なとき

税金
社会保険料
 

 

手取り額

傷病手当金を受給した場合

 

社会保険料
 

手取り額

 

傷病手当金は税務上は非課税所得となりますので、税金は引かれません。しかし、会社に籍があるうちは、社会保険料(健康保険、厚生年金保険、雇用保険)を会社と折半して払う必要があるので、たとえ休職していても傷病手当金の中から払わなければなりせん。
細かい計算は写真をクリックすると全国健康保険協会のHPにとびますので、そちらをご覧ください。

出典:全国健康保険協会

傷病手当金の額は、支給が決定したらその額で固定され、その後、収入に変化があっても増減することはありません。

傷病手当金をもらえる期間

注:支給期間については令和4年1月より、通算1年6ヶ月となります。
詳しくはこちら

傷病手当金は支給開始から1年6ヶ月の期間(船員保険のみ3年)、受給する権利があります。傷病手当金受給後、復職して給与をもらいはじめたら傷病手当金は受け取れなくなりますが、その受け取らない時期も含めて1年6ヶ月となります(在職中のケース)。

 

傷病手当金をもらう条件

  1. 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業である
  2. 病気やケガのため仕事に就くことができない
  3. 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
  4. 休業した期間について給与の支払いがないこと(一部給与の支払いがあった場合はその分は支給されない)

1.業務外の事由による病気やケガの療養

業務上の病気やケガの場合は労災保険から支給されます。労災保険のほうが補償される額が厚く、労災保険が使われるときは、健康保険からは保険給付はおこなわれません。
がんの場合、アスベストが原因の中皮腫や肺がん、ジクロロメタン等の有機溶剤が原因の胆管がんなどは、因果関係が認められれば労災となります。労災の認定は労働基準監督署がおこないます。

2.病気やケガのため仕事に就くことができない

傷病手当金をもらう条件に病気やケガで労務不能の状態という条件がありますが、この労務不能については明確な基準はなく、医師の証明証と個々人の状態と仕事内容により保険者(全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合)が判断します。例えば、建設現場で働く人が足の小指を骨折した場合は、その現場で仕事ができなくなったため労務不能と認められ、デスクワークのみをおこなう人の場合は、足の小指の骨折では労務不能と認められないケースなど、個々のケースにより自分の所属する保険者(健康保険組合等)が判断します。
がんの場合の倦怠感などは外見からではわかりづらいので、入院ではなく自宅療養中でも傷病手当金が支給されるケースが多いと思います。

3.連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった

待機は収入があっても完成します。有給が残っていても傷病手当金を申請できますが、休職中は労働義務を免除されているので有給は消化できません。

4.休業した期間について給与の支払いがないこと(一部給与の支払いがあった場合はその分は支給されない)

業務外の事由による病気やケガで休業している期間に給与が支払われている場合は、傷病手当金は支給されません。だたし、支払された給与が前1年間の平均月給の3分の2未満である場合は、その差額が傷病手当金として支給されます。支給される傷病手当金の額は給与が支払われたとしても、給与と合わせて月給の3分の2以上支給されることはありません。

退職後の継続給付

傷病手当金は条件を満たすことにより、退職後も支給開始日から1年6ヶ月以内であれば受けとることが可能です。退職後の経済的支援は闘病生活に大きな影響を与えるので大事です。

退職後の継続給付受けるための条件
  1. 退職日までに1年以上継続して被保険者であること。
  2. 退職日に傷病手当金を受給しているか、受給できる状態であること。
  3. 退職日後も引き続き同じ病気療養のため(医師の診断により)労務不能の状態であること。
  4. 退職日に仕事を休んでいること(出勤したらダメ)

退職後に傷病手当金の継続給付を受けるためには、退職日に絶対に出勤しないでください。退職日に出勤してしまうと、傷病手当金を受給できる状態ではなく、労務不能と認められないので継続給付が受けれなくなります。辞める前にお世話になった人に挨拶したい場合は、退職日ではない日にあいさつ回りをしましょう。休職中の人は、休職中だけど出勤扱いにせず、会社にあいさつ回りだけしましょう。退職日に休んでいて、傷病手当金を受給できる状態であれば、あとから傷病手当金の制度にきづいて健康保険に請求することも可能ですが、退職日に出勤扱いになっていると、記録がちゃんと残っているのでどうしようもありません。
細かいことですが、退職日に出勤するだけでその後の継続給付がもらえない可能性出てきます。これは絶対に覚えておいてください。

退職後も働けない場合の健康保険制度は、任意継続被保険者か国民健康保険被保険者か働いている家族の扶養被保険者を選ぶことになりますが、どちらを選んでも、傷病手当金の退職後継続給付を受けることができます。

ただし、下図のように資格喪失(退職)後、一旦他の仕事に就くことができる状態になった場合、同じ傷病が悪化して、さらに仕事に就けなくなっても、傷病手当金の資格喪失後の継続給付は受けられません。

出典:全国健康保険協会

退職後、任意継続被保険者を選びその期間中に発生した病気やケガについては、傷病手当金は支給されません。

傷病手当金の手続き

申請方法は?

保険者(全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合)ごとに申請書類は違います。全国健康保険協会はホームページから申請書類をダウンロードできます。健康保険組合もホームページが申請書類をダウンロードできるところが多くなってきましたが、健康保険組合ごとに申請書類も申請方法も異なりますので、自分の健康保険組合にお問い合わせください。

ここでは全国健康保険協会の申請書を見本にしたいと思います。

在職中の場合、申請書類は以下のように分かれます。

在職中の場合は、事業主記入用紙があるので会社経由で申請することが多いと思います。療養担当者記入用紙は被保険者が医師に記入をお願いします。申請方法も会社または健康保険組合により、それぞれやり方があると思うので、それに従うのがスムーズだと思います。基本的には会社経由ですが、どうしても会社経由が嫌であれば、保険者(全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合)と直接やり取りすることもできるはずです。

退職後も引き続き継続給付を受ける場合は事業主記入用が不要になり、直接保険者(全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合)と書類のやり取りをします。療養担当者記入用紙は、被保険者(被保険者であったもの)が、医師に記入をお願いして用意したものを被保険者記入用紙と一緒に保険者に提出します。

退職後に、上記の傷病手当金をもらう条件を満たしており、初めて請求する場合は初回のみ事業主記入用紙が必要になるので、退職前の会社に書類を書いてもらうことになります。しかし、傷病手当金は原則、被保険者(被保険者だった者)と保険者(全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合)との制度であり、勤めていた会社との制度ではありません。勤めていた会社が非協力的であれば、保険者と直接やり取りすることはまったく問題ありません。

申請はいつするの?

傷病手当金は会社を休んで給与をもらえらない場合に支給されるので、申請は休んだ後にします。長期療養が必要な場合は月単位でまとめて申請できます。基本的には1月単位で申請しますが、保険者(全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合)により、3ヶ月単位でも大丈夫なところもあり、医師に記入をお願いする傷病手当金申請書もお金がかかるので、申請の時期は保険者に確認してみるのがいいでしょう。

また、注意点として、傷病手当金の申請には時効があります。仕事を休んだそれぞれの日の翌日から2年で時効となるので、必ず2年以内に申請しましょう。

支給までの期間はどのくらい?

申請書類を提出後、保険者にて審査がおこなわれ支給が決定した場合、傷病手当金が支給されます。支給までの期間は、保険者により変わってくるので一概には言えませんが、初回の申請は約1ヶ月、2回目以降は2〜3週間ぐらいが平均です。傷病手当金は給与の補填として支給されるので、どの保険者もスピーディーに手続きをしてくれると思います。

傷病手当金が併給調整される(支給されない)パターン

傷病手当金は、条件によってはまったく受け取れなかったり、一部しか受け取れなかったりすることがあります。給与と傷病手当金が併給調整されることは説明しましたが、それ以外にも傷病手当金が併給調整されるパターンがあるので説明します。詳しくはこちら

障害厚生年金年金または障害手当金が受けられるとき

傷病手当金と同時に同じ病気やケガで障害厚生年金を受けることができるときは、傷病手当金は支給されません。ただし、障害厚生年金の額(同時に障害基礎年金を受けることができるときはその合計額)の360分の1が傷病手当金の日額より少ないときは、その差額が支給されます。また、障害手当金が受けられる場合は、傷病手当金の額の合計額が、障害手当金の額に達する日まで傷病手当金は支給されません。
障害基礎年金と傷病手当金が同時に同じ病気やケガで受けることができるときは、併給調整されず、両方とも全額支給されます。

詳しくは「傷病手当金と障害年金は同時にもらえるの?」をご覧ください。

雇用保険の基本手当(失業手当)を受けたい

傷病手当金と雇用保険の失業等給付(失業手当)を同時に受けることはできません。雇用保険の基本手当(失業手当)を受給する大前提として、就職する積極的な意思があり、就職できる能力があることが求められます。一方、退職後に傷病手当金の継続給付を受給しているということは、医師から労務不能と認められている状態です。傷病手当金と失業等給付は同時に受けることはできないので、傷病手当金の継続給付を受給しているときは、雇用保険の基本手当(失業手当)の受給期間を延長することができます。原則の基本手当(失業手当)の受給期間は離職日の翌日から1年間となりますが、傷病により引き続き30日以上就業に就くことができない期間があるときは、受給期間延長の申出をすることにより、受給期間を最長4年間まで延長することができます。
傷病等により引き続き30日以上働けないときは、雇用保険の基本手当(失業手当)は働ける状態(傷病手当金をもらえない状態)になったときに、受給期間延長の申出をすることにより、決められていた日数分基本手当を受けとることができます。

資格喪失後に老齢(退職)年金が受けられるとき

資格喪失後に傷病手当金の継続給付と老齢(退職)年金をうけることができる場合は、傷病手当金は支給されません。ただし、老齢(退職)年金の額の360分1が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。

労災保険から休業補償給付を受けていた(受けている)場合

過去に労災保険から休業補償給付を受けていて、休業補償給付と同一の病気やケガのために、労務不能となった場合には、傷病手当金は支給されません。また、業務外の理由による病気やケガのために労務不能となった場合でも、別の原因で労災保険から休業補償給付を受けている期間中は、傷病手当金は支給されません。ただし、休業補償給付の日額が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。

出産手当金を受けている場合

傷病手当金と出産手当金は同時に受けることはできません。この場合、傷病手当金は支給されません。ただし、傷病手当金の額が出産手当金の額より多いときは、その差額が支給されます。

 

共済組合の傷病手当金

傷病手当金についての基本事項は健康保険と同じですが、細かいところに違いがあるので説明します。

支給期間

出典:厚生労働省HP

健康保険の場合、支給開始日から1年6ヶ月で、期間の途中に傷病手当金をもらっていない時期があっても、もらっていない期間を含めて1年6ヶ月です。
一方、共済組合は支給される期間が1年6ヶ月です。期間の途中に支給されていない期間があれば、その期間を除きます。
図解すると次のようになります。
共済組合は支給されている通算期間が1年6ヶ月まで傷病手当金がもらえます。
がん患者の働き方を考えると、共済組合の計算方式がいいですよね。
しかし、健康保険では支給開始日から1年6ヶ月までです。

さらに共済組合には独自の附加給付を設けている場合が多く、傷病手当金の1年6ヶ月経過した後、プラス6ヶ月支給されるケースが多いです。

 

 

 

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